やるせない


 私は友達と街をぶらぶら歩いていた。
 他愛もない話をする。女の子同士の話は尽きないものだ。
 楽しい。きっと客観的に見ても私たちは楽しそうだろうし、主観的にも私は楽しい。友達もきっと楽しいだろう。
 人込みも、歩くのを妨げる程ではない。喧騒も、話の邪魔になる程ではない。気が向いた店に入り、これ可愛いとかこれどうだろうとか、喋って、笑って。
 天気は良く、日の光は眩しい程だ。紫外線がどうとか、日焼け止めがどうとかいう話になる。楽しい。楽しい。
 なのに。
 それは突然襲ってくる。
 ぶつりと何かが切り替わったように、何もかもが遠く希薄になってしまう。自分の中身がごっそりと抜け落ちてしまう。見えているのに見えなくなる、聞こえているのに聞こえなくなる。
 そして空っぽの世界の中の空っぽの私の中に、なぜだろう、やるせない、という単語だけがぽかりと浮かぶ。
 やるせない。
 天気も、街も、人も、友達も、何一つとして変わってなどいないのに。
 私は友達の目を盗んで、溜め息を吐いた。



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