いい終末を


 僕はテレビを消した。だって特別番組ていうかニュースしかやってない。
 なんでも、あと数日のうちに地球は滅亡するそうだ。どうやら隕石か何かが地球に衝突するらしい。テレビでいろいろ特集組んでやってるけれども、いくら説明されても、難しいことは僕にはよく分からない。
 こんな時こそ、ニュースじゃなくてもっと他のものをやればいいのにと思う。いつもやってるような、ただ面白くて馬鹿馬鹿しいだけのものをやればいいのにと思う。
 僕は窓の外に目をやった。いい天気だった。穏やかな青空に、ぼんやりと浮かぶ雲。いったいこの空のどこから、隕石が降って来るというのだろう。
 電話が鳴った。仲の良い友人からだった。
『よー!どうしてる?』
「ん?暇してる」
『だったら今から出て来いよ!大カラオケ大会やろうぜ』
「カラオケ?店とか開いてんの?」
 こんな時に。
『ちげーよ!俺んちでやるんだよ!』
「おまえんち?おまえんちカラオケの機械とかあったっけ?」
『いや、ないけどさ、CDならあるじゃん。それかけてやるの!だからおまえもありったけCD持って来いよ!』
「ありったけって……」
『じゃ、早く来いよなー』
 ぶつ。
 慌ただしく電話は切れた。友人の多い彼のことだ、きっと片っ端から電話をかけているのだろう。みんな集まれば相当な数になるはずだ。果たして僕は何番目にかけてもらえたのかな、とかちらりと考えてみる。
 壁際のCDラックを見た。まあ最近流行りのものから、一昔前のもの、ずっと好きで集めてるアーティストのもの、あまり知られてないようなマイナーなもの、そんなにCD買う方じゃないと思っていたけれども、これを全部持って行くとなると大変そうだった。
 僕はとりあえず手持ちの中では一番大きなかばんを用意して、CDを詰め込み始めた。友人みんなが、ありったけのCDを持ち寄って始める大カラオケ大会。なんだか、ものすごいことになりそうだった。
 きっと、楽しいだろう。
 CDをかばんに詰め込みながら、僕はこの計画を立てた彼に感謝した。
 いい終末を、迎えられるような気がした。



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