ぶいーん


「りょーちゃん髪伸びたんじゃない?」
「え?そうですか?」
 突然桂木さんに言われて俺はなんとなく髪をつまんでみた。ここに入ってすぐ切ってから、まだそんなに経ってはいないと思うんだけど。
「俺が切ったげるよ。ほらそこ座って」
「は?いいですよ」
「遠慮すんなよー」
 ほらほら、と桂木さんは半ば無理やり俺をイスに座らせた。
「え?いや、ちょっと」
 べつに遠慮してるわけじゃないんですけど。
「だいじょうぶだって。こう見えて俺けっこう器用よ?」
 ふわっと大きな布を首に巻き付けられててるてるぼうずみたいにされてしまった。後ろから桂木さんの上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
「ちゃーんちゃーらちゃーんちゃーん」
「なんで表彰式の音楽なんですか」
「ちゃららららんらんらーん」
 そして鼻歌にまじって、ぶいーん、という音が近付いてきた。
 ぶいーん?
「ちょっと待ってください」
 俺は慌てて振り向いた。
「なんですかそれ」
「え?バリカンだけど?」
 思ったとおり、バリカンを手にした桂木さんがにやにやと笑っている。
「いいじゃなーい。ここは思い切って剃っちゃおうよー。きっと似合うよー?」
「勘弁してくださいよ。何の罰ゲームですか」
「あれ?りょーちゃん何か悪いことでもしたの?」
「何も身に覚えがないから言ってるんです」



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