4月バカ


 寒い。
 もう4月だというのに朝からどうも肌寒かった。いわゆる花冷えというやつなんだろうなと思いながら俺はコタツに入ってぼんやりとテレビを見ていた。
 春休み。俺はひたすらぼんやりだらだらしていた。こうして普段は見れない時間帯のテレビ番組が見れるのは新鮮で面白かった。なんだか風邪でもひいて学校を休んでいるような気分になる。
「大変だ!!」
 そんなふうに俺がだらだらと春休みを満喫していると、突然スパーンとふすまが開き、大声とともに隣の家のタケピーが姿を現した。毎度のことに俺はあきれて彼を見やる。
「なんだまったく、相変わらず登場の仕方がワンパターンな奴だな。いったい何事だ」
「それが大変なんだよ!!」
 だが彼は俺のあきれた様子にもかまわず、また大声を出した。
「だから何が。彼女でもできたのか」
「いや、それが聞いてくれよ!俺さっきそこで宇宙人見ちゃってさあ!何やってんのかと思えば地球侵略計画立ててんの!やべえよ!地球滅亡しちまうよ!」
「…………」
 いきなりのバカなセリフに俺は何かを言い返す気力もなくして黙り込んでしまった。そういえば今日は4月1日。いわゆるエイプリルフールというやつだったな。
「……あれ?」
 ただただあきれて冷たい視線を送る俺に、やっとおのれのバカさ加減に気付いたのか彼はひきつった顔で小首をかしげた。まったくこのバカは。俺は深々とひとつ溜め息をついた。
「で?お前が正義の味方に変身して宇宙人と戦うのか?お前なあ、どうせ嘘つくならもっと考えろよ」
「あ!そのネタいいなあ」
「バカ。そんなバカなことを言うのは俺の前でだけにしろ。お前のバカな話を黙って聞いててやれるのは俺ぐらいだぞ」
「えー」
「それよりいつも言ってるだろうが。ふすま開けっ放しにするな。帰るなら帰れ、入るなら閉めて入って来い」
「うー」
 ふすまを開け放したままそこで仁王立ちしていた彼は、顔をしかめてふすまを閉め、もそもそとコタツに入ってきた。
「それにしても今日は寒いなあ。もう春だってのに」
 言いながら背中を丸める彼に、俺はにやりと笑いかけた。
「なんだ、知らないのか」
「え?何?」
「なんでも近年の環境破壊による影響で、今まで温暖化していた地球が今度はいきなり氷河期に突入するそうだ。天気予報見てみろ。明日からはまた真冬並の寒さ、来月には日本も北極並に寒くなるぞ」
「は!?マジかよ!」
 すると彼は大慌てで、天気予報天気予報言いながら勝手にテレビのチャンネルを変えだした。だがそんなことしてもこの時間はどのチャンネルも天気予報などやってはいない。第一、
「本当にお前はバカだな。嘘に決まってるだろう」
「あ」
 笑いをかみ殺しながら俺が言ってやると、彼の動きが止まった。
「ちくしょー!だまされた!」
「分かったか。嘘をつくんだったらこのくらい自然につくんだな」
「ねえそのネタもらっていい?」
「は?誰がやるか」



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