牛乳


「なあ透」
 夕方、ぼくがご飯の支度をしていると、冷蔵庫を開けながら涼が言った。
「何?」
「牛乳ない?」
「え?ないよ」
 ぼくはちょっと驚いて涼を振り返った。冷蔵庫をのぞき込んでいた涼がそのドアを閉めながらぼくを見て、
「買っといて」
「なんで」
「飲むから」
「どうしたの急に?涼、どっちかっていうと牛乳苦手だったじゃない」
 ぼくは首をかしげた。すると向こうから兄貴が笑顔で、
「もうすぐ身体測定なんだよな、涼は」
「うるせー」
 涼は兄貴を振り返って文句を言っている。ああなるほど、とぼくもちょっと笑った。どうも涼はどっちかというと背は低い方らしく、本人もそれがちょっとした悩みのようだった。
「そんな急に伸びるものでもないと思うんだがなあ」
「そんなん分かんねーだろー?」
「まあ、腹こわさない程度にがんばれよ」
「むかつくー!」
 からかうような調子の兄貴に涼は地団駄を踏んでいる。ぼくはそれを眺めながら、とりあえず明日忘れずに牛乳買ってこなきゃなあ、と考えていた。



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