朝起きてくると、透さんが居間のソファーで寝ていた。
 ソファーの前の小さなテーブルの上には紙の束。どうやら夜中まで仕事してて、途中一休みのつもりが寝てしまったんだろう。
 しょうがないなあ、と俺は溜め息をついた。寒い季節じゃなくてよかったと思う。
 透さんは横向きになって腕で半分顔を隠すようにして寝ていた。いつもかけている眼鏡がテーブルの上に置いてあった。眼鏡を外したところをあまり見たことがなかったのでなんだか不思議な感じだった。
 ちらりと時計を確認すると、もう起こした方がよさそうな時刻だった。
「透さん」
 俺は手を伸ばして透さんの肩を叩いた。
「ほら透さん、起きなよ」
 起きる気配がないので今度は揺さぶってみた。うーん、と透さんは一度縮こまって、顔をこちらに向けて薄目を開けた。ぼんやりとまばたきしながら、
「……兄貴?」
 え?
 一瞬、どきりとして俺は固まった。
「なに寝ぼけてんの」
「いて」
 透さんのおでこをひっぱたいて、眼鏡を突き付けてやる。
「ほら」
「んー?」
 透さんはまだ眠そうな顔でむくりと起き上がると眼鏡をかけて俺を見た。
「……あー」
「おはよう」
「おはよう」
 透さんが気まずそうに笑っているように見えて、俺は背を向けた。
 間違えんなよ、と文句を言うことも、似てんのかな、と訊いてみることも、できなかった。



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