小宴会


「吉岡さん!大野さん!」
 呼びながら勢いよく扉を開けると、二人はそれぞれ驚いた様子で俺を見た。とりあえず二人がちゃんとそこにいたことに俺は少し安堵する。
「どうしたの?えーと、高木君。そんな血相変えちゃって」
 吉岡さんがきょとんとした様子で言った。いつもと変わらない調子だ。
「そっちこそ何やってるんですか」
 あらためて見た二人の様子に、俺の方もぽかんとしてしまった。二人は直接床に座り込んでいて、なぜかそれぞれ手には缶ビールを持ち、前にはおつまみが並べてあった。
 一瞬、何がどうなっているのか分からなくなった。宴会?それどころじゃないはずなのに?いや、ひょっとして俺の方がおかしいのか?
「ああ、これ?」
 吉岡さんは笑いながら缶ビールをちょっと掲げた。
「飲んでたの。なんていうか……最後の晩餐みたいな?」
「何言ってるんですか」
 最後の。
 その言葉に我に返って俺はつかつかと二人に歩み寄った。
「馬鹿なこと言ってないで、逃げますよ」
「逃げる?どこへ」
「俺が案内します。ほら、早く」
 俺は吉岡さんの腕をつかんで引いた。けれども吉岡さんは立ち上がろうともせずただへらへらと笑っている。
「いいよめんどくさい」
「めんどくさいって……、このままここにいたらどうなるか分かってるんですか?」
「うん」
 あっさりと吉岡さんはうなずいて、さりげなく俺の手をどかした。
「いいよ別に。このままここと命運をともにすることになっても。それはそれでしょうがないんだよ。そんなもんなんだよ」
「そんな」
 大野さんは、と俺は隣を見た。大野さんはうつむいて何やら考えているようにも見えたし、ただぼんやりしているようにも見えた。
「そうだ、せっかくだから高木君もいっしょに飲もうよ。まだビールあるよ?」
 吉岡さんの声がやけに明るく聞こえた。



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