引きこもり
大野が部屋から出てこない。
また引きこもってるな、と部屋の扉の前に立って思う。これで何日になるかなあ。大野が引きこもるのは比較的よくあることで、今とりたてて緊急の用事があるわけでもないし、たとえ引きこもっていても仕事は部屋でやっているようなので差し支えがあるわけでもない。
けどなあ。
どんどんどん、と僕は目の前の扉を叩き、耳を近付けて中の様子をうかがった。何も物音は聞こえてこない。
「大野ー」
僕は声をかけながらもう一度どんどんどんと扉を叩いてまた中の様子をうかがった。うーん。こりゃ今日は無理かなと思っていると、
がちゃり。
「イテ」
突然扉が開いて僕は頭をぶつけてしまった。大野があきれたように僕を見下ろしている。
「……やあ」
ぶつけたところをさすりながら僕も大野を見上げた。
部屋は設計図や作りかけのあれこれやらで雑然としていた。やっぱり仕事はしていたみたいだ。それらの間を縫って大野はのそのそと歩く。僕もちょろちょろとついていってそれぞれ途中の空いた隙間に座った。
「だってもう何日もひきこもってるからさあ」
じろりと大野がにらむので僕はもそもそと呟いた。
「だから別に緊急事態だとかいうわけじゃないから」
「そうか」
ぼそりと大野は呟いた。
「ただ僕がちょっとつまんないなあってだけで」
「そうか」
「大野も実はそろそろ引きこもってるのも退屈になってきたんじゃないの?」
「…………」
大野はうつむいて近くにあった何かの設計図を取ると眺め始めた。
「人間というのは面倒なものだな」
しばらくして視線は設計図に落としたまま大野が言った。
「現状に何も不満はない。むしろ好きなことをさせてもらえてありがたいくらいだ。それなのに時折どうしようもなく全てが面倒になる。何もかもに背を向けてしまいたくなる」
それで大野は引きこもるのだろう。その気持ちは僕にも分かる気がする。
「ねえ大野」
ふふ、と僕は笑った。
「それはつまり僕もめんどくさいってことかな?」
わざとそんなふうに言ってみると、にらまれた。
「冗談だよ」
分かってるよ。
僕が大野を認めているように、大野が僕を認めてくれていることぐらい。
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