呼びたくなる名前


「あ、カサハラ」
「は?」
 俺は顔を上げた。シマムラが目をまるくしてこちらを見ていた。ていうか、
「何ひとのこと指差してんの、失礼だな」
「ごめーん」
 シマムラはへらへらと笑った。悪いとおもってないだろ。
「ていうかあんたといいツカモトといい何なの?」
「え?ナオがどうしたの?」
「あいつもなんか俺のことめずらしいもんみたいに見てたから」
「そっかー」
 やっぱりシマムラはへらへらしていた。互いの吐く息が白かった。
「で?なんか用なわけ?」
「ううん、べつに」
 俺は顔をしかめた。どうでもいいけどシマムラはこの寒いのにミニスカートだった。上はコートで襟元にはふわふわしたマフラーだけれど。
「寒そう」
 思わずつぶやいた。ミニスカートについての感想なんてその程度だ。
「えー?普通だよー」
「そんな足出してよく平気だよな」
「なんかカサハラって響きがいいよね」
「は?なんの話?」
「だから用がなくても呼びたくなるって話ー」
 じゃあね、と言うと急にシマムラは走って行ってしまった。結局ずっとへらへらしていた。
「なんなんだよ」
 俺は溜め息をついた。吐く息はやっぱり白かった。



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