ちょっとそこまで
「あ、カサハラコウスケ」
と、いきなりフルネームで呼ばれた。
視界の端にスニーカーが見える。顔をあげると同じクラスの、
「ツカモト」
確かフルネームはツカモトナオ。
「何?」
向こうが立ち止まっているので俺も立ち止まった。
「今帰り?」
「そうだけど」
制服姿の俺と違ってツカモトは私服だった。
「居残り?」
「んな馬鹿じゃねえよ。そっちこそこんな時間にどちらまで?」
「いや、ちょっとそこまで買い物」
確かにツカモトの格好はいかにもそんな感じだった。とりあえずてきとうに着ている楽な普段着といったふうな。
「そうだよな、その格好でデートとかだったらびっくりだし」
あはは、とツカモトは笑った。
「そもそも相手がいないわよ」
へー。
いやべつにどうでもいいけど。
「じゃ」
手を振ってツカモトはすたすたと歩いて行った。
「……じゃ」
俺もちょっと片手をあげて、ツカモトの後ろ姿を見送った。
ていうかなんでフルネームなんだよと今更ながらに思った。
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