ある日


 今日も依頼人は一人も来ない。
「暇だなー」
 机につっぷしてセイがぼやいている。見た感じまるでやる気のないバイトのようだが、彼はこれでもこの事務所の若き所長だ。
「いいんじゃない?平和で」
 ぴんと背筋を伸ばしてのんびりとお茶を啜って言うのはシーナ。彼女はセイの相棒で、とりあえずここの副所長ということになっている。副所長なんてあってないようなポジションだと彼女は言うが。
「でもこうも暇だとなあ。いっそなんかどかーんと事件でも起きないかなあ」
「不謹慎ですよ」
 続くセイのぼやきに即突っ込みをいれたのは、通称おシゲさん。見た目も声も渋くてどことなく偉そうな彼の方がまるで所長のように見える。
 と、ふいに事務所の扉を叩く音がした。
「お?」
 依頼人か?
 セイががばりと起き上がった。はいはーい、と軽やかにシーナが立ち上がって、ドアを開けた。
「あ、どうも」
 現れたのはよく知った顔だった。
「新聞の集金でーす」
 なーんだ。
 セイはがっくりとまた机に突っ伏した。
「はいはい、ちょっとお待ちくださいね」
 シーナはそんなセイをちらりと見て苦笑した。



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