やれるもんなら


 桂木さんが床に転がっていた。
 俺はただそれを見下ろしていた。
 何やってるんですか、と声をかけようかと思ったが思っただけだった。
 桂木さんは俺に背を向けるように横向きになっていた。
 息は普通にしている。ただの昼寝だろう。床に直だけど。
 俺はひとつ溜め息をついて、そこから視線を外し、とりあえず机に向かった。
「りょーちゃん」
 桂木さんの声がした。
「今一瞬俺のこと殺しちゃおうかなって思ったでしょ」
 俺は振り向かず答えた。
「そんなこと思ってません」
「嘘だあ」
 嘘だった。
 この人がいなくなることによってこの研究所に生じるダメージは如何ほどだろうかと考えていた。
 それよりもまず床に転がったその様自体がすでに死体のようだと思っていた。
「やれば?」
「…………」
 俺は振り向いた。
「やれるもんならやってみなって言ってんのー」
 桂木さんもこちらを見て笑っていた。
「返り討ちにしてやっからさ」
 相変わらず、死体のように転がったままで。



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