暮れ


 窓から入る日の光は、もう夕暮れの赤みを帯びていた。
「今年ももうすぐ終わるねえ」
 私とあいつはそれぞれコタツに入ってのんびりしていた。四角いコタツの一辺に私、その斜め前のもう一辺にあいつという配置だ。隣同士じゃ照れくさい、向かい合わせだと互い(主にあいつ)が見にくい、ということからのこの並びだ。
「ああ、早いものだな」
 あいつはすっぽりコタツに入って、頭だけをコタツからのぞかせている。目を閉じて、半分うつらうつらといった様子だ。
 コタツの上にはザルに入ったみかん。テレビでは見ても見なくてもいいような年末の特番がやっている。今日はいい天気だった。差し込む夕日は眩しいけれども綺麗だ。そういえば、お正月の朝日を初日の出と言うみたいに、大晦日の夕日にも何か呼び名があったりするのだろうか。
「いろんなことがあったねえ」
「そうだな」
 私はぼんやりと今年のあれこれを思い返してみた。
「……ふふふ」
 そしたらひとつ面白いことに気付いて私は思わず笑ってしまった。
「なんだ。何がおかしい」
 あいつが目を開けて視線だけを私に向けた。私も笑顔をあいつに向けて、
「だって、思い返せばあんたのことばっかりで」
 そう、思い出すあれこれの一つ一つ全てにこいつがいた。いつも隣で偉そうだったり気難しい顔をしていたり人を馬鹿にしていたりちょっぴり間抜けだったり落ち込んでいたり励ましてくれたり優しかったり。
「悪かったな」
「そんな、悪かっただなんてとんでもない」
 ところがあいつは拗ねたように向こうを向いてしまい、私は慌てて否定した。
「今年もあんたのおかげで楽しかったわ。一緒にいてくれてありがとう」
「……。私の方こそ、君には感謝している」
 しばらくして、やっぱり向こうを向いたまま、ぼそりとあいつは言った。もう、照れ屋さんなんだから、と私はその頭をちょんとつついた。
「来年もよろしくね」
「ああ、こちらこそ、よろしく」
 来年もまた、こいつと一緒にたくさんの思い出を作っていけたらいいなと思った。



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