サンタ


 忘年会だという透さんが帰って来たのは、もう日付も変わった頃だった。
「りょーくーん、メリークリスマース!」
「透さんうるさいよ、今何時だと思ってるの」
 透さんはいい感じにできあがってしまっている。弱いくせに調子に乗って呑むんだからなあ。
「はい、りょーくんにクリスマスプレゼントだよー」
 差し出されたのはプラスチックのパックに詰められた唐揚げやら天ぷらやらだった。きっと忘年会で出た料理の残りだろう。
「ごめんねえりょーくん、クリスマスだってのにひとりぼっちにさせちゃってー」
「はいはい」
 べたー、と透さんが俺の背中にしがみつくようにくっついてきた。俺はそれを引きはがしてとりあえず椅子に座らせる。
「明日は二人でお祝いしようねー」
「透さん、俺ももう子どもじゃないんだからクリスマスぐらいでがたがた言わないよ?」
 まったく、いつまでも俺のことを子どもだと思ってるんだから。
「ほら、水」
「あ、ありがとー」
 コップに水をいれて差し出してやると、透さんは一気にそれを飲み干して、ぷっはー、と息をついた。
「うまーい、もう一杯!」
「はいはい」
 俺はコップを取って流しに向かった。その時、透さんが、
「あれえ?」
 と、窓の外を指差して声を上げた。
「りょーくん見て?窓の外にサンタさんがいるよ?」
「は?」
 何言ってんだ、と思いながら俺も窓の方に目をやった。するとそこには本当にサンタの格好をした人影があった。お決まりの赤い上下に帽子、だが白く長いあごひげはいかにもつけひげっぽかった。帽子から少しはみ出た髪は黒いし。
「…………」
 サンタはただ、こちらを見ていた。暗いし、つけひげのせいもあって顔ははっきりとは分からない、けれど。
 俺は部屋を飛び出していた。外に出た。窓の外、サンタのいた辺りへまわって。
「――親父!!」
 叫んだ。
 直感だった。つけひげのせいではっきり分かったのは目許だけだったけれども、間違いなかった。親父だ。帰ってきたの?それとも?
「…………」
 ああけれども、もうそこに彼の姿はなかった。

 部屋に戻ると、透さんはテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。きっと朝には今のことは忘れてしまっているんだろう。
 俺はもう一度窓の外を見た。もちろんサンタの姿などなく、外はただ、暗くて静かだった。



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