私と先輩


 あ。
 休み時間、なんとなく廊下の方を見ると、ちょうどあこがれの先輩の姿を見つけた。
「先輩だ。おーい」
 やっぱり先輩の気配には敏感なんだな。さすが私。嬉しくてついつい窓から顔を出し、先輩に手を振ってしまう。先輩は移動教室なのだろう、教科書やら何やらを抱えて友達と話しながら歩いている。その先輩がふと私の方を見た。
「せんぱーい」
 私がさらに手を振ると、先輩もちょっと笑って手を振り返してくれた。うわ、やった。
「千秋ちゃん……」
 私が幸せな気分で先輩の後ろ姿を見ていると、くいくいと上着の裾を引っ張られた。見ると友人の呆れ顔。
「もう、何やってるのよ」
「ああ見た?今日も先輩素敵だったねえ」
 私がまだ興奮さめやらぬ様子で言うと、彼女は溜め息をついた。
「いや、千秋ちゃんが先輩ラブなのは分かるけど……」
「いやん、ラブラブだなんて」
 まだそんな、こうやって偶然会った時か部活のとき、ちょっと話をするのでいっぱいいっぱいなのに。
「なに照れてるのよ、そうじゃなくてなんていうか……まあいいや」
「え?」
 よく分からなくて私は首をかしげる。彼女はなんでもない、というように首をふった。
「毎日楽しそうでいいわね」
「まあねー」
 確かに楽しいかもしれない。いや、ラブラブにはまだまだ先は長いけれども。



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