冬休み


「おはよーございます……」
「あ、ユウおっはよー。今日も遅刻!」
 なんとか事務所にたどりついてドアを開ければ、子どもの甲高い声がいきなり頭に響いた。
「……あ?」
 僕は顔をしかめて声の方を見た。客用の応接セットにふんぞりかえっているハナとその向かいに座ってこちらを振り向いているスズの姿があった。
「うわ。おまえらなんでいるんだよ。学校は?」
 確か今日は平日だった気がするのだが。いや、僕の曜日感覚がおかしくなっているのだろうか。
「残念でしたー。今日から冬休みでーす」
 僕が首をひねっているとハナが元気よく答えてくれた。(頭に響く……。)ああなるほど、冬休みねえ。
「ユウさん今日も具合悪そうですね。また二日酔いですか?」
「まあね……」
 ぐったりと自分の席についた僕のもとにマスミちゃんがお茶を持ってきてくれた。いい子だなあ。
「おシゲさーん、あたしクリスマスプレゼントはケータイが欲しいなあ」
「なんで私に言うんですか」
 僕はひとくちお茶をすすると机につっぷした。だめだ。なんとか来てみたけれど頭が使い物にならない。
「あ、そうだシーナさん。私明日からしばらくはたぶん来れないと思います」
「え、どうして?」
「冬休みだし、たまには家にいて家族と過ごしてやらないと。怪しまれるので」
「あーそっかー、スズちゃんここのこと家族に内緒にしてるんだったね」
「えー?じゃあクリスマスもスズ来ないの?パーティやるのに」
「うん、たぶん。ごめんね」
「めんどくせーなー。もう話しちまえよ」
「こら、セイ。そんなこと言わないの。それぞれ事情ってもんがあるんだから」
 頭の上で話し声が飛び交っている。どこか心地よいそれをBGMにもう一眠りできそうだった。
「おいこら、ユウ!お前なに居眠りしてんだよ!」
「いて……。かんべんしてくださいよ……」
 と思ったら、セイに頭をひっぱたかれて起こされてしまった。



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