サンタにリクエスト


 帰って来ると、涼が床に何枚も広げたチラシをいつになく真剣な表情で眺めていた。
「なにやってるの?」
 よく見ると、それらはすべておもちゃ屋さんのチラシだった。そうか、そういえばもうクリスマスも近いもんなあ。
「あ、透だ。おかえりー」
 ぼくに気付いて涼が顔を上げた。
「ああ、ただいま。何、クリスマスプレゼント?」
 ぼくはかがみこんでいっしょにチラシを覗き込んだ。また一枚一枚のチラシが大きい。おもちゃ屋さんも気合いが入っている。
「うん。親父がね、サンタさんにたのんでやるからほしいものにマルつけとけって」
「ああ、なるほど」
 それでチラシ広げて真剣な顔してたのか。
「透はもう決めた?」
「何を?」
「なにおねがいするか」
「サンタさんに?」
「うん」
 涼は至極真面目な顔でうなずいた。きっとまだサンタさんを信じてるんだろう。可愛いなあ。
「いや、ぼくはまだ、特に何もたのんでないかな」
 ぼくは笑顔でそう答えた。すると涼はぱっと顔を明るくして、
「じゃあさ」
 と、一枚のチラシをぼくの方に向けるとひとつのおもちゃを指差した。
「透はこれにしろよ」
「え?なんで?」
 いきなりそんなこと言われても。ぼくが目を丸くしていると、そしたらさ、と涼がまた別のチラシをぼくに向けた。
「そしたらこれと、あとこれも両方もらえるじゃん。俺がこっちおねがいするからさ、透がこっちおねがいするの」
「なんでぼくが」
「いいじゃん。どうせほしいものないんだろ?」
 涼はそう言うとさっさとチラシに丸をつけてしまった。上機嫌な鼻歌まじり。もちろんクリスマスソングだ。
「ええと……」
「親父ー!決まったぜー!」
 涼はチラシを持ってばたばたと兄貴の元へ走って行く。ぼくはそれを目で追って、兄貴と目が合った。兄貴はぼくを見て困ったように笑っていた。
 しょうがないなあ。
「……まあいいか」
 ぼくも同じように笑って、ただ、ひとつ溜め息をついた。



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