スズ


「こんにちは、おつかれさまです」
「ああスズちゃん、おつかれ」
 入ってきたのはこれまた中学生くらいの子だった。そういえばおシゲさんが言ってたなあ、子どもたちは今日は学校だって。でもどうして子どもが当たり前のようにここのメンバーに入っているのだろう。
「あれ」
 私と目が合って、スズちゃんが目を丸くした。ボーイッシュな子、というのがスズちゃんの第一印象だった。パーカーにジーンズの私服姿。おかっぱよりは少し伸びたセミロングヘアが女の子っぽいといえば女の子っぽい。
「ねえシーナさん、このひとだれ」
 スズちゃんは今度は首をかしげてシーナさんを見た。
「あ」
 私は慌てて立ち上がった。
「こんにちは、あの」
「新しく仲間に入ったマスミちゃんよ」
 シーナさんが紹介してくれる。私はぺこりと頭を下げた。
「よろしくおねがいします」
「あー、どうも」
 スズちゃんも少し頭を下げた。
「スズおかえりー、今日のおやつはシュークリームだってさ」
 ハナちゃんがソファーのところからスズちゃんに声をかけた。
「シュークリーム?」
 肩にかけたリュックを下ろしてハナちゃんの向かいに腰掛けながらスズちゃんがテーブルに目をやる。そういえばスズちゃんの学校は制服ないのかな。それとも着替えてきたとか。
「なにこれ、どこの?」
「さあ。コンビニのじゃない?」
 ふーん、と言いながらスズちゃんもシュークリームを手に取った。
「そういえば」
 と、不意にスズちゃんが私を見た。
「マスミって本名?」
「え?ああ、そうだけど」
「なんだ、そうなんだ」
「ええ?そうなの?」
 うなずいた私にスズちゃんはなぜか残念そうに呟き、ハナちゃんはびっくりした顔でこっちを見た。
「せっかくだから偽名使えばよかったのにー。つまんなーい。おシゲさんみたーい」
「悪かったですねつまんなくて」
「ひょっとして二人とも偽名なの?」
 顔をしかめて呟くおシゲさんはともかく、ハナちゃんの言葉に私は少し驚いた。『スズ』も『ハナ』も偽名?
「そうだよー」
「そうだよー」
 二人はそろってうなずいた。
「そうなんですか?」
 私は思わずシーナさんを見た。シーナさんはちょっと笑って、
「ええ。ほら、最初に言ったでしょ?とりあえず呼び名さえあれば偽名でもかまわないって」
 そういえばそうだったかもしれない。けれども偽名を使うことなど私は考えもしなかった。



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