お出かけ


 市場は今日も賑わっていた。
 ちょうど一番混む時間帯のようで、人込みは少し歩きづらいほどだ。
「おーい、ちゃんとついて来てるか?」
 その人込みの中にライエとファイの二人連れもいた。ライエが声をかけながら後ろのファイを振り返る。ファイは顔をしかめてなんとか後ろをついてきているようだったが、小柄な彼は人込みに埋もれてしまいそうになっていた。
「ああ、はぐれたら大変だな。ほら」
「ほら、てなんだその手は」
 ファイは自分に伸ばされたライエの手を見て、その顔を見上げた。
「なんだって決まってるだろ。はぐれないように手つないでてやるよ」
「結構だ」
 ファイはぴしゃりとその手を叩いた。少し足を早め、ライエの隣に、それから前に行こうとする。
「おいおい何急いでるんだよ、待てよ、迷子になるだろう?」
「誰が迷子になるって?」
「……俺が」
 振り返ったファイの険しい顔がライエの返事に少し緩んだ。子供の相手は大変だ、とライエは内心溜め息をつく。
「さて、とりあえずさっさと買い物すませよう」
 ライエは懐からごそごそとメモを取り出した。出かけるんだったらついでに、とツァーランに押しつけられた買い物メモだ。
「……多いな」
 メモを見てライエは思わず呟いた。まったく人使いの荒いことだ。これではどちらがついでなんだか分からない。
「プラス、お土産といったところか」
 やれやれと、今度こそライエはひとつ溜め息をついた。



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