寝癖


 今日もいい天気だなあ。
 テーブルに頬杖をついて、ツァーランは窓の外の青空をぼんやり眺めていた。
 見たところ、ふんわりとした雰囲気の優しそうなお姉さんといったところだ。伸びかけた銀色の髪を後ろできゅっと一つに束ねている。窓の外を眺める瞳は空よりも濃く鮮やかな青。
 テーブルの上にはまだ手をつけられていない食事が一人分。ツァーランの分ではない。彼女はとっくに済ませてしまっていた。これはいつまでも起きてこない同居人の分だ。
 窓の外からテーブルの上に視線を移し、ツァーランはひとつ溜め息をついた。そろそろいいかげんに叩き起こしに行ってやろうかしら、などと考えていると、廊下をぺたぺたと歩く足音が聞こえてきた。
「おっはよー」
 まだ眠そうな声とともに現れたのは、ツァーランの同居人の一人、シェイア。スラリと背も高く少年のようにしているが、これでも年頃の少女だ。
「おはよう、シェイア。今日も素敵な髪型してるわね」
 シェイアに目をやると、ツァーランはニヤリと口の端をゆがめた。確かに、シェイアのウェーブのかかった肩ぐらいまでの長さの鮮やかな赤い髪は、今日も寝癖であっちを向いたりこっちを向いたりとひどい有様だった。
「悪かったわねえ。どうせ爆発してますよ」
 むー、と顔をしかめたシェイアに、ツァーランは、まあこの子は、と大袈裟に声を上げてみせた。
「褒めてあげたんじゃないの」
「どこがよ」
 そのわざとらしい様子にますます顔をしかめて、シェイアはまたぺたぺたと足音をたてて部屋に入ってきた。
「朝ごはんはー」
「そんな素直じゃない子に食べさせる朝ごはんはありません」
「なんだ、用意できてるじゃん。いただきまーす」
 ツァーランのセリフに構わずテーブルの上の朝食を見つけると、シェイアはさっそく食べ始めた。なんだかんだ言ってツァーランの作るごはんは美味しい。
「あれ?ライエとファイは?」
 ぐるっと部屋を見回し、シェイアはその紫色の目をくるりと見開いた。ああ、と頷いてツァーランは答える。
「おっさんとクソガキなら出かけたわ」
 おっさんことライエとクソガキことファイは同じくツァーランやシェイアの同居人だ。町外れの小さな家で、彼ら四人は一緒に暮らしているのだった。
「出かけた?」
「あんたがいつまでも寝てるんだもの。おかげで私まで置いてけぼりよ」
 あーあ、とツァーランは溜め息をついた。シェイアは眉をひそめてカツンとフォークで皿を叩いた。
「なんであたしのせいになるのよ。一緒にお出かけしたかったんなら行けばよかったじゃない」
「だって黙ってみんないなくなったりしたらあんた大騒ぎするじゃないの。いやよ面倒なことになるのは」
 そのでかい図体と態度に似合わず心配性で寂しがり屋なのだ、シェイアは。まあそれは仕方ないのだろうとツァーランは思う。
「失礼ね。大騒ぎなんてしないわよ」
「どうだか」
 ちょっと恥ずかしそうに上目遣いでこっちを見るシェイアにふふんとツァーランは笑った。



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