きみにありがとう


「結局のところ、私は私のやりたいことをしている、ただそれだけのことにすぎない」
 と、神妙な面持ちであいつが呟いていた。
「いくら誰かのためだとか言ってもそれはまやかしで、やはりそれは己のためにすぎないのだ」
 相変わらず小難しいことばかり考えてるなあ、と思いながら私はかたわらのあいつを見やった。俯いてないで顔を上げればいいのに。いい天気なのだから。
「だが。いや、だからこそ。そんな己のためだけにしか生きていないような私を、こうして認めてくれる、そして側にいてくれる、そんな存在があることのなんと幸いなことかと思うのだよ」
 ふとあいつが私を見た。私は思わず笑ってしまった。だって。
「やだなあ、もう」
 だって、そんな小難しいこと言わなくても。
「あのね。そういう時はね、こうやって」
 私はあいつをぎゅっと抱きしめた。
「ただ、『ありがとう』って言えばいいの」

 その存在に、ありがとうを。



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