義兄弟


「大変だ波多野君!大変なことに気が付いてしまった!!」
 休み時間。せっかくだから有意義に使おうと思って机に突っ伏していると、突然の星野の大声に邪魔をされてしまった。
「……何?」
 どうせまたくだらないことなんだろうなと思いながら顔を上げると、星野は俺の目の前に来て机をバンと叩いて、無駄にシリアスな調子で言った。
「近い将来僕らは兄弟になってしまうのかもしれない」
「は?何言ってんの」
 やっぱりくだらないことのようだ。俺は起き上がってぼりぼりと頭をかいた。だが星野はあきれる俺にも構わず話を続けている。
「だって、なっちゃんと千秋ちゃんは姉妹じゃないか」
「そうだな」
「波多野君は千秋ちゃんといい感じだし、なっちゃんは僕の、その、う、運命の人だし……?」
 星野は急にもじもじし始めた。まったく、こいつは遠野の話となるとこれなんだから。
「もしも近い将来それぞれ、け、結婚なんかしちゃったらほら、僕と波多野君は義理の兄弟ってことになるじゃない」
「…………」
 俺は溜め息をついた。まあ確かにそうなるのかもしれないけれども。
「だからほら、お兄様って呼んで?」
「だれが呼ぶか」
「まあ確かにちょっと複雑だよねー。実際は波多野君の方が何か月か年上なのに弟だなんて」
「ていうか……」
 千秋ちゃんともべつにそんなんじゃないし。そう続けようとしてふと気が付いた。
「なあ星野」
「え、何?」
 俺は星野の背後を指差してやった。
「後ろ。遠野がすごい顔で睨んでるぞ」
「え?」
 星野は恐る恐るといった様子で背後を振り返った。そこにはなっちゃんこと遠野が引きつった笑顔で立っている。逆に怖い。
「さっきから黙って聞いていれば……あんた何勝手なこと言ってんのよ!」
「きゃー!ごめんなさいごめんなさい」
 星野は慌てふためいて逃げ出した。それを遠野が追いかけている。俺は頬杖をついてそれを眺めた。なんだかんだいって仲のいい二人だ。星野の言うとおり、近い将来彼らが、ということはあり得るような気がするけれども。
「義理の兄弟ねえ……」
 俺の方はないだろう。そう思った。



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