白い帽子


「すみません」
 帰り道、家のごく近くでそう声をかけられた。見るとまずつばの広い大きな白い帽子が目に入った。さらに薄い色のサングラス、セミロングの黒髪、白いワンピース。すらりと背の高い女性のようだった。
「……なんでしょう」
 サングラスの奥からまっすぐ私を見ている彼女に私はぶっきらぼうに返事をした。まるで待ち伏せていたかのように佇む正直言ってうさん臭い人影に無視することも考えたがそれは今更無理なようだったので。
「これを」
 彼女は腕にかけていた小さな鞄から封筒を取り出してこちらに差し出した。差し出す手が綺麗でマネキンかと思った。まるで作り物のようだ。
「読んでみてください。決して損な話ではないはずです」
 手を伸ばすのをためらう私に彼女はさらにそう言った。封筒の中身は手紙だろうか。
「何ですか?」
「ここで詳しく話すことはできません。ですからこれを」
 彼女は私に封筒を押しつけた。私がそれを受け取ると彼女は微笑んだ。
「それでは」
 私は封筒に目をやった。表には何も書かれていない。
「また会えることを、願っています」
 私は顔を上げた。ところがもう、すでに彼女の姿はどこにもなかった。



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