気紛れに下される罰


 目を覚ますと、辺りは白くて眩しかった。
 一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。確か、研究室の自分の机にうつ伏せて寝ていたはずなのに。
 実際、触れる質感は馴染んだ机と椅子のものだ。瞬きをすれば瞼の動きに合わせて影が落ちた。ただ、目を開いても眩しいだけで何の形も見えないだけだ。
「まっしろだ……」
 見上げて、呟いた。薄汚れた天井があるはずのそこも、ただただ眩しいばかりだった。
 眩しさに耐えられなくなって目を閉じた。どうせ何も見えないのならば、しばらくこうしていればいい。
「おはようございます」
 ドアの開く音と、誰かの入ってくる気配がした。ドアがあるはずの方向に顔を向けてみるが、やっぱり真っ白に眩しいだけで何も見えない。回復するまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「あー……、おはよう」
 とりあえず挨拶を返して、俯いた。目を閉じるだけじゃ足りない気がして片手で目許を覆った。
「桂木さん、どうかしたんですか」
 さすがに様子がおかしいと思ったのだろう、どこか不安げに声を掛けられた。説明するのも面倒だったが黙っていても面倒なことになりそうで、溜め息とともに答えてやる。
「目が見えない」
「は?」
「いわゆる特殊能力の反動ってやつ。しばらく休めば治るからほっといて」
 特殊能力。もちろん生来のものなどではなく、この研究所の礎(いしずえ)として在り続けるシステムの一部を利用したものだ。後付けの力は当然体に負荷をかけ、使えばその反動がくる。その症状は時によって様々で、それが今回はたまたま目にきただけだった。
(気紛れに下される、罰、のように)
「特殊能力って……いったい何したんですか」
「ほっといてー。ていうか今日はもう帰っていいよ、どーせ使い物にならないから」
 毎度のように襲うこの反動が腹立たしかった。こうして反動に悩まされるたびに、礎として眠り続けるあなたのことを嫌でも思う。利用するなど許さないとばかりにあなたは俺に罰を下す。反動は拒絶、要は相性の問題だという。だとすれば、お互いの相性の悪さときたらそうとうなものだ。
 あなたは俺に罰を下す。様々な罰を気紛れに下す。自業自得、俺の方こそおこがましいのだというように。
「酷いなあ……」
 あなたは、残酷だ。
 涙が溢れてくるのも恐らく反動の影響だろう。だって今、こっちはむしろ笑ってやりたい気分なのだから。



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