白髪探し


「あ、白髪はっけーん」
 昼休み、僕が机に突っ伏してうつらうつらしていると、そんな明るい声とともにもしゃっと髪を触る気配がした。
「……ん?」
「あ、ちょっと動かないでよ。白髪見失っちゃったじゃない」
 首をひねって見上げると、思ったとおり、立花だ。彼女は動くなと怒りながらまた僕の髪をかきわけている。
「何やってんの」
「え?白髪あったから抜いてあげようと思って」
「増えるからやめてよ」
「白髪抜いたら増えるなんて迷信よー。それに桐島君ならきっとロマンスグレーも似合うと思うわ」
「……それ相応の年齢ならね」
 もう勝手にしてくれ。僕はあきらめてまた机に伏せた。だいたい基本的に僕は彼女にはかなわない。彼女は楽しそうに僕の白髪を探していた。
(そして僕も、きっと心のどこかでは、こういうのも悪くないと思っていた)

「……何やってんだ」
「あ、佐倉」
「毛づくろいでもしてるのか?」
 頭の上から別の声が聞こえてきた。佐倉。相変わらずとぼけたことを言っている。
「ちがうわよ、桐島君の白髪抜いてあげてんの」
「抜いたら逆に増えるんじゃないのか」
 さっきの僕と同じようなセリフに、僕も立花も思わず笑った。
「やだ、二人して同じこと言って。白髪抜いたら増えるなんて迷信だってば」
「そうなのか?」
「そうよ。あ、もう!ちょっと動かないでってば桐島君。また白髪見失ったじゃない」
「ああ、ごめんごめん」
 僕は笑いながら起き上がった。昼休み、ちょっと一眠りしようと思っていたけれど、これでは眠れそうになかった。

「あら、もう寝ないの?」
「うん……、なんだか昼寝してるのがもったいないような気がして」



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