有り得るかもしれない話
一度突き落とされて、それから引っ張り上げられるような感じで目が覚めた。
視界に入るのは天井。白いけど薄汚れている。まあ天井なんてろくに掃除なんかしないんだろう。
手を動かそうとしてみた。動かない。長年動かさずにいたから動かし方を忘れてしまったかのようだ。
それでも天井に向かってなんとか手を伸ばしてみた。もう、私を覆う透明な壁はない。手の甲が天井と私を遮る。このアングルで自分の手を見るのもずいぶんと久し振りだ。
横たわっていた体を起こしてみた。やっぱり体は重い。重力ってこんなに強かったんだとあらためて思った。
ひとつ溜め息をついた。
さっきから膝の辺りに圧迫感がある。なんだろうと思っていたらそこに突っ伏している人影があった。眠っている。つい先ほどまでの私のように。
私はもう一度上を見た。ぐるりと空中を見回してみた。
おそらく今ごろは『彼』も気がついていることだろう。私はただ眠っていただけじゃなかった。
「ねえ、」
私はずっと、あなたたちのこと、見てたのよ。
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