豆まき


「透!片付けとかいいからちょっとこっち来いよ!」
 ぼくが夕飯の後片付けをしていると、いきなり涼がそう言ってぼくの服の裾を引っ張ってきた。
「え?なに?」
 手を拭いてから振り返ると、ほら!と涼から鬼のお面を押しつけられる。
「なにこれ?」
「透が鬼だからな!」
 そしてぽかんとしている僕をよそに涼はばたばたとリビングに走ると、ぼく目掛けて、
「鬼は外ー!」
「うわ」
 いきなり豆を投げ付けてきた。
「ほら透!早くお面つけろよ!鬼は外ー!」
「うわ、ちょっと」
 ああそうか、豆まきか。それにしてもちょっと容赦ないんだけど。
「威勢がいいなあ」
 リビングでは兄貴がそんなことを言いながら笑ってぼくらを見ていた。いや、兄貴も笑ってないで何とかしてよ。
「何やってんだよ、親父も早く豆投げろよー」
「でもなんで透が鬼なんだ?」
「だってぴったりじゃん」
 何かさりげなくひどいこと言われてるような気がするし。
「ほら透!鬼はアイタタタっつって出てかねえと!鬼は外ー!」
「あいたたた」
 言われるまでもなく痛い。ぼくは頭を抱えて逃げ出すことにした。
「なあ涼、さっきから『鬼は外』ばっかり言ってるが『福は内』は?」
「あ、親父!なに勝手に豆食ってんだよ!」
 まったく、豆まきもいいけどいったい誰が後片付けすると思ってるんだよ。
 床に散らばる豆を見て、ぼくはやれやれと溜め息をついた。



戻る
- ナノ -