夜当番


「あれ?今日の夜当番中嶋さんだったっけ?」
 先に来ていた俺の姿に桂木さんがそう言って首をひねった。
 壁にモニターがいくつも並ぶ研究所の監視ルーム。ここで夜間に研究所内の監視にあたるのが通称夜当番だ。基本は二人の研究員が交替で行っている。
「いえ、本当は伊東だったんですけど代わってくれって頼まれて」
「そうだよね、今日伊東君だったよね」
 桂木さんは小脇に抱えていた数冊の雑誌をばさばさと長机に放ると俺の隣にある椅子を引いて腰を下ろした。部屋にはモニターが正面にくるような形で長机と椅子が横並びに置いてある。
「伊東のことだから、たぶんまた合コンじゃないですか」
 俺が少し笑って言うと桂木さんも苦笑いした。
「またかよー。ていうかさ、伊東君絶対わざと俺が夜当番の日をねらって合コンしてるよね」
「それは桂木さんが女の子独占するからでしょう」
「やだなあ、伊東君もいつまで根に持ってるんだか」
「なんでも伝説の男だそうじゃないですか」
「別に大したことした覚えはないんだけど」
 桂木さんは雑誌を一冊手に取った。表紙のグラフィックが鮮やかな科学雑誌だ。
「監視はいいんですか」
「ああ、べつにいいよテキトーで。どうせ何も起きないって」
「はあ」
 桂木さんは最初っからやる気なさげだった。まあ確かに監視など形だけのものかもしれないけれど。
「あ、中嶋さん。今日ここ禁煙だからね」
「え?そうなんですか?」
「俺が嫌なの。吸うなら部屋出て吸ってよね」
「はあ。わかりました」



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