お正月


『やあ葵ちゃん、あけおめ〜!』
 新年早々桂木さんからの電話。いったい何事かと思えばそんなただの新年の挨拶だった。
「ああ、明けましておめでとうございます。新年早々わざわざすみませんね」
『ねえ葵ちゃん今朝月食見た?』
「いえ、残念ながら私はつい先ほどまで寝正月と決め込んでおりましたので」
『なんだよ!つまんねーやつだなあ』
 私のささやかな嫌味など桂木さんにはまったく伝わっていないようで、相変わらずテンションの高い話し声は電話を耳から外してもがんがん響いてくる。
『それにしてもすげえよなあ。もう2010年だぜ!なんかSFみたい!かっこいー!』
「そうですか?」
『ねー葵ちゃん今どこいるの?寮の部屋?』
「そうですが」
『じゃあさあ、今からこっち来なよ、研究室。餅焼くからさ、いっしょに食べようぜー』
「今からですか」
 何が悲しくて正月からこの人の相手をしなければならないんだと思ったがそれは心の内に留めておく。
「桂木さん、ひょっとして研究室で年越したんですか?」
『うん。だってどっちにしろ一緒じゃん』
「まあ確かに、すでにその研究室が桂木さんの家みたいにしてますがね」
『じゃ、餅焼いて待ってるからねー。早くおいでねー』
「……分かりました」
 私の返事が届くか届かないかのうちに電話は切れてしまった。
 正月ぐらい休みたいのに。
 窓の外を眺めやり、私は一つ溜め息をついた。



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