ケーキ


『あ、もしもし涼くん?』
 透さんから電話があったのは俺が家に帰りついてすぐぐらいだった。
『あのね、今日ちょっと帰り遅くなるから。ごめんね、夕飯も先に食べてていいから』
「うん、分かった」
 俺はうなずいた。こんなふうにいきなり透さんの帰りが遅くなるのはよくあることだった。また飲み会なのかな。
『ごめんね。せっかくのクリスマスなのに。なるべく早く帰ってくるからね』
 透さんはもう一度ごめんねと言った。そういえば、とあらためて今日の日付を思い出した。そういえば今日はクリスマスイブだ。
「何言ってるの。いいよ、俺は大丈夫だから無理しなくて。何?デート?」
『違うよー、お仕事だよー』
「本当?」
 俺はちょっと笑った。俺は別にどちらでも構わないけど。ていうか透さんもいい年なんだから、彼女がいるならそっちを優先してほしかった。
『あ、帰りにケーキ買ってくるからね。楽しみに待っててね』
「え?いいよ別にわざわざ買ってこなくても」
『……えー。買ってきちゃだめ?』
「いや、買ってきちゃだめ?って」
 どことなくしょんぼりとした透さんの声に俺はまた笑った。まったくこの人は。
「別にそうは言ってないじゃない。いいよ、透さんが食べたいなら買ってきて」
『うん。それじゃあね』
「はいはい」
『あ、ひょっとして涼くんの方こそ今夜はデートだったりする?』
「んな相手いないってば」



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