背もたれ


 あー疲れたなあと僕は大きく伸びをした。もうここのところずっと研究室にカンヅメ状態でパソコンに映しだされる何やらわけの分からない文字の羅列と向き合い続けている。
「大野ー」
 僕は呼びながら大野を振り向いた。彼は床に直接あぐらをかいてこちらに背をむけたまま何やら作業を続けている。
「何だ」
「休憩しようよー」
「勝手にすればいいじゃないか」
 声をかけてもこちらを振り向かないまま大野はぼそぼそと言った。大柄な彼の背中を丸めた後ろ姿はやっぱりクマみたいだなあと思う。
「ねえ大野ー」
「なんだ」
「寄っかかっていい?」
 その背中に寄り掛かって座ったら楽そうだなあと思って僕はさっさと立ち上がると大野の返事を待たずに彼と背中合わせに床に座った。足を投げ出して大野の猫背のカーブに合わせて体を反らせて天井を仰いでみた。
「あーやっぱ楽だなあ」
「……重いんだが」
 僕の頭の後ろから大野がぼそりとつぶやくのが聞こえたけれども無視して僕は目を閉じた。
「このまま一眠りできそう」
「俺は座椅子か」
 やれやれとばかりにまた大野がつぶやいた。けれどもじっとしてくれているのが可笑しくて、僕はくすくすと笑ってしまった。



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