長生きしたいからね


「うわ、りょーちゃんタバコ臭ーい」
 と、桂木さんに言われた。
「え?そうですか?」
 俺は袖のところに鼻をちかづけて臭いを嗅いでみた。けれどもいまいちよく分からない。
「なに、ひょっとして吸い始めたの?」
「いいえ?」
 俺は首を振った。
「ああ、そういえばさっきまで廊下で吉岡さんと話してたので、そのせいじゃないですか?」
 吉岡さんはちょっと休憩だとか言ってタバコ吸ってたから、その臭いが移ったのかもしれない。
「ふーん。まありょーちゃんがタバコ吸おうがどうしようが勝手だけど、この部屋ではやめてよね。ここ禁煙だからね」
「そうなんですか?」
 嫌そうに顔をしかめて言う桂木さんに俺は少し驚いた。研究所ではあまりそういうことは気にしない感じだったからだ。
「ああ、そういえば桂木さんタバコ吸いませんよね」
「吸わないよー。だって俺長生きしたいもん」
「え?そうなんですか?」
 それはさらに意外な言葉だった。なんていうか、ここの人たちは桂木さんも含め皆、どこか刹那的に生きているようなイメージがあったからだ。
「なんだよ、何驚いてんのさー」
「あ、すみません。なんかあまりにも意外で」
「そう?」
 桂木さんはちょっと笑った。
「まあ他の人たちはどうか知らないけど、俺は長生きしたいからね。こう見えても結構健康には気をつかってんのよ?」
「へー」



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