風の夜


「風強いねえ」
 ぼんやりとテレビを見ながら透さんが呟いた。テレビでは台風情報。外では風がうなりをあげている。
「ねえ透さん、明日学校休みになるとかいう話ないの?」
 訊くと、透さんは俺を見てちょっと肩をすくめた。
「残念ながらそれはなかったなあ。台風だっていってもこの辺はちょっと逸れてるし」
 それでも時折強く吹く風に、家もガタガタと音を立てている。
「大丈夫かなあ。屋根飛んだりしないよね」
「それはないよー。そういえば涼くん、外の何か飛ばされそうなものとか片付けたっけ?」
「うーん、たぶん大丈夫」
 ああでもさっき外で何かバケツっぽいものが飛ばされてるような音がしてたなあ。いや、あれはきっとよその家のバケツだ、きっとそうだ。
「けどさ、台風ってなんかちょっとドキドキするよね。このニュースの感じとかさ」
 透さんはまたテレビに視線を戻した。確かに自分で言うように少しテンションが上がってるように見える。まったくこの人は。
「なに呑気なこと言ってんの。子どもみたい」
「がーん。涼くんがなんか大人みたいなこと言ってるー。まだ17のくせにー」
「はいはい」
「涼くんだって昔は目えキラキラさせて台風情報見てたくせにー」
「はいはい」
 確かに、俺も昔はちょっとわくわくしていたかもしれない。平日なら学校が休みになるかもしれないし、たとえ夏休みで学校とか関係なくても、ちょっとした非日常にどきどきしていたような気がする。
「ねえ透さん」
「ん?」
「透さんが17の頃ってどんなだったの?」
「えー?」
 今の俺の歳の頃。ふと思って訊いてみると、透さんはきょとんと目を丸くした。
「何言ってるの涼くん。ぼくが17っていったら涼くんと出会った年だよ」
「ええ!?そうだったっけ!」
「そうだよー。ぼくと涼くん10離れてるんだもん」
 俺は指折り数えてみた。あ、本当だ。
「えー、あの時透さん17だったんだ。なんか今よりも大人なイメージがあるんだけど」
「なんだよそれー」
「透さんさあ、年々子どもっぽくなってるんじゃない?」
「あー。それは涼くんが大人になってってるんだよ、きっと」
 透さんはなんだかしみじみと言って微笑んだ。あらためて言われてしまうとちょっと落ち着かない感じがした。
「じゃあさ、親父はいくつだったのかな」
「兄貴?」
「うん。俺たちを拾ってくれたとき」
「ああ、えーと……あれ?」
 透さんはちょっと視線を上にあげて首をかしげた。
「そういえば兄貴と年の話とかした覚えないなあ」
「え?そうなの?」
「まあ少なくともぼくよりは上だよね、兄貴だから。でもいくつだったのかなあ」



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