律義だな


「やっぱりここにいたのか、桐島」
 桐島がいたのは仮眠室だった。ベッド代わりにもなるソファーに腰掛けてタバコを吸っていた。
「佐倉」
 ぼんやりとしているようだったその表情が俺を見て驚いたようなそれに変わった。
「寮の部屋に行ったらいなかったから。研究室にもいないみたいだったし」
 ソファーは小さなテーブルをはさんで二台置かれている。俺は提げていたビニール袋をテーブルに置き、桐島の向かい側に腰を下ろした。
「どうしたんだ」
 言う桐島の視線もテーブルの上のそれに向いている。どうした、と言いながらも何となく予想がついているに違いない。
「どうしたって」
 俺は肩をすくめて笑った。
「誕生日じゃないか、お前の」
 持ってきたのはささやかながらも一応バースデイケーキのつもりだ。それを眺めたまま桐島も少し笑った。
「毎年律義だな」
「祝ってやらないとお前拗ねるだろう」
「昔の話じゃないか。いつまで根に持ってるんだ」
「根に持ってるだなんて人聞き悪いな」
 けれどもなんだかんだ言いつつ、桐島は笑顔を隠しきれずにいる。やれやれと桐島は呟いて、指に挟んでいたタバコを灰皿に押し付けた。



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