朝の廊下


 朝。まだ眠いなあと思いながら俺は研究所の廊下を歩いていた。
「あ」
 ふと気付くと廊下の向こうの方からスタスタとかなりの早足で誰かがやってきている。河原さんだ。
「河原さん、おはようございま……おっと」
 ぶつかりそうになって俺は慌てて飛び退いた。河原さんはまるで俺が見えていないかの様子でスピードをゆるめることなくスタスタと歩き去っていってしまった。そういえば何やらぶつぶつと呟いていたような。また集中しすぎて周りが見えていないらしい。相変わらずいろんな意味で危ない人だなあ。
「……な、頼むよー」
「えー。僕はそういうのはめんどくさいから嫌だなあ」
 やれやれと河原さんを見送っていると後ろの方から今度は話し声が聞こえてきた。見ると伊東さんと吉岡さんだ。ひょろりと細い伊東さんと並んでいるせいで標準体型のはずの吉岡さんが太めに見えてしまう。そういえば吉岡さんは大野さんといる時はけっして小さくないのに小柄に見えるしなあ。
「おはようございます」
 俺はぺこりと二人に挨拶した。
「あ、おはよう」
「おはよう、そうだちょうどよかった」
 二人は俺に気付くと、とくに伊東さんの方が表情を明るくした。
「え、なんですか?」
「今合コンのメンバー集めてるんだけどさ、高木君今夜時間ある?」
「合コンですか」
 うーん、と俺は考えこんだ。別に予定はないけれどあまり行く気にはなれなかった。吉岡さんと話していたのもこのことだったようだ。なるほど確かに面倒くさい。
「俺はちょっと……」
「えー?」
「他にいないんですか?大野さんとか副所長とか」
「だって大野はまた引きこもってるし、副所長は……」
「ねえ……」
 伊東さんと吉岡さんは何やら複雑な笑みを浮かべて顔を見合わせていた。あれ?俺何か変なこと言ったかな。
「あ、それなら桂木さんとかいいんじゃないですか?こないだから女の子と遊びたいなーとか言ってましたよ」
「桂木さんはだめだめ!」
 伊東さんは慌てて顔の前で手を振った。
「あの人連れてったりなんかしたら女の子みんな持ってかれちゃう!」
「え、そうなんですか」
「そうだよ!あの人は凄いよー。伝説の男だよ」
「それ言い過ぎ、君がモテないだけだって」
 何やらしみじみと思い返している様子の伊東さんに吉岡さんが冷静に突っ込んでいた。



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