河原と伊東


 があん!と机を蹴る音が響いた。
「ああ?何考えてんだテメエ!ふざけんな!」
 さらにそれに怒鳴り声が続く。またかとそちらを見やると小柄な人影が頭から湯気を噴かんばかりに怒っていた。研究員の河原。彼は時々情緒不安定になってはこうして突然切れるのだ。
「まーまーまー落ち着いて落ち着いて」
 怒鳴られた相手は軽い調子で河原をなだめていた。こちらはヒョロヒョロと細長い。同じく研究員の伊東。他にもヘラヘラとかチャラチャラとかいった繰り返し言葉の似合う男だ。
「ナメてんのか!この仕事にかけるテメエの情熱はその程度なのかよォ!」
「情熱って……」
 困ったようにヘラヘラしている伊東に対して河原はなぜか涙目になっている。どうでもいいが河原は熱い。鬱陶しいほどに熱い。
「あーちょっと、誰か助けてー」
 ふと伊東がくるりと俺を見た。
「大野ー」
「知らん」
 なんで俺が助けてやらなきゃならんのだ。ただでさえ鬱陶しいのにこれ以上河原にかかわるのはまっぴらだ。
「じゃあ吉岡」
「えー?どうせまたテキトーなこと言って怒らせたんでしょ?知らないよ、自分でなんとかしなよ」
 同じように助けを求められた吉岡もやれやれと肩をすくめている。
「そうだ!だいたいテメエはなあ!」
「うわうわうわ」
 河原は今度は小柄ながらも背伸びして伊東の胸倉を掴みあげていた。もう降参だというように両手をあげる伊東に、俺は吉岡と顔を見合わせるとそろって溜め息をついた。



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