寝起き


「やっと起きたか、佐倉」
「……桐島」
 目を覚ますと、じっとこちらを見ている桐島の姿が目に入った。
「君がここで寝ているなんて珍しいな」
 研究所の仮眠室だった。テーブルを挟んでソファーと椅子が置いてあるうちの、ソファーに俺が、向かい側の椅子に桐島がいた。
「何時だ……?」
 俺はぐるりと辺りを見回して時計を探した。見つける前に桐島が答えた。
「もうすぐ10時だ」
「そうか」
 どっこらしょと起き上がればそれだけで体がパキポキと音をたてた。慣れない場所で寝ていたせいか逆に怠くてあちこちが痛い。
「こんな遅くまで何をやってたんだ」
「ちょっとな」
 まだぼんやりとしている俺を桐島はやはりじっと見ていた。
「なんだよ」
「いや、別に」
 別に、といいながらもどことなく笑っているように見える。俺はやれやれと溜め息をついた。
「まったく……いつからいたんだ」
「どこに」
「ここにだよ」
「さあな」
 桐島はちょっと首をかしげた。俺が休憩しに来たのは一時間くらい前だったけれども、彼が入って来たのには全く気付かなかった。
「……趣味の悪い奴だな」
「なにが?」
「そうやってずっと人の寝顔を見ていたんだろう」
「ひどいな。こっちは起こさないように気を使ってやったんだ。むしろ感謝して欲しいところなんだが」
 桐島はわざとらしく溜め息をついてみせ、それからニヤリと笑った。
「安心しろ。別に何もしてないから」
「当たり前だ」
「顔に落書きもしてないから」
「…………」
 俺は慌てて立ち上がって鏡を探した。背後で桐島がくすくす笑うのが聞こえた。



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