二人きり


「おはようございます」
「あ、マスミさん。おはようございます」
「あれ?今日はおシゲさんだけなんですか?」
 私はぐるりと部屋を見回した。おシゲさんがいつもの場所に座っているだけだ。所長やユウさんはともかくシーナさんがいないのは珍しい。
「はい。所長とシーナは二人で調査に出かけています。ユウはまた二日酔いです」
「そうですか……」
 今日は平日だからスズちゃんとハナちゃんも学校だしなあ。私は荷物を机の一番下の引き出しに放り込んで、お茶をいれようと流し台に向かった。
 ということは今はおシゲさんと二人きりなんだ。
 少し遅れてそのことに思い至った。二人分の湯飲みを棚から出してお茶を入れる。うわ、なんだか緊張してきた。
「どうぞ」
「ああ、すみません」
 お茶を持って行くとおシゲさんは少し頭を下げてちょっと笑顔を見せた。
「いいえ」
 私はやっぱり緊張したまま首を振って逃げるように席に戻った。
 もちろん別に嫌いだとか苦手だとかいうことはない。おシゲさんは真面目で口数は少ないけれどたまに話すと面白くて、かなり年上だけど背は高いし顔も悪くないし声は低くて渋いしいつもはちょっと気難しそうな顔してるけどたまに見せる笑顔はこういっちゃなんだけど可愛い。
「……何か?」
「えっ?」
 ふとおシゲさんがこちらを見て首をかしげた。突然のことに私はびくっと驚いてしまう。
「いいいいえ、なんでもないです」
「そうですか」
 驚きのあまり妙なトーンになってしまった。おシゲさんはなんか腑に落ちない様子だったけれども頷いてまた机の上の書類に視線を戻した。
 やっぱりなんか緊張するなあ。早くシーナさん帰ってこないかな。
 私は変にどきどきする胸に手を当ててひとつ深呼吸した。



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