彼によろしく


「なるほど、そういうことね……」
 桂木さんは目を細めて頷いた。
「確かに、君が何か別の目的を持ってここに来ているだろうことぐらいは薄々分かってたけど」
 やはりバレバレだったのか、と俺は苦笑いしたい気分だった。
「まあ、こうして話してくれたってことはもう、君はこちら側についてくれていると考えていいのかな?」
「…………」
 俺は咄嗟に頷けなかった。俺のそんな様子にも桂木さんは微笑を浮かべたままだ。
「あっさり認めるのも気が引けるか」
 俺はただうつむいた。
「りょーちゃん」
「……はい」
「行ってきなよ」
「え?」
 俺は顔を上げた。俺を見る桂木さんの笑顔がひどく優しげに見えた。
「時緒のとこ。行って、敵討ちしてきなよ」
 俺は呆然と桂木さんを見ていた。
「ほんとは俺もいっしょに行きたいところなんだけどね。時緒とはあれ以来一度も会ってないし」
「いいんですか」
「いいよ、行ってらっしゃい」
 桂木さんはあっさりと頷いた。
「彼によろしく」



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