お茶


 お茶をいれて持って行くと、桐島はそれを見てわざとらしく驚いてみせた。
「なんだ、本当にお茶なんだな」
「何を持って来ると思ってたんだ」
 俺は顔をしかめながらもどこかほっとしていた。いつもの調子が戻ってきている。
「いや、君には似合いだ」
「緑茶がか」
「そうだな。あと縁側と日なたと」
「どうせジジくさいとか言いたいんだろう」
「よく分かったな」
 彼は両手で湯飲みを包み込むように持ち、それに視線を落とした。
「佐倉」
「ん?」
「君が本当にジジイになった時、そばにいるのは誰なんだろう」
 静かに彼はつぶやき、俺はだまってお茶をすすった。
「私は……」
「心配するな」
 桐島は顔を上げて俺を見た。まったくしょうがない奴だと心のどこかで思った。
「ジジイになっても、お茶ぐらいいれてやるから」



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