川辺さんに似てる人


「あー、そうか」
 ふと思い当たって思わずあたしが呟くと、ん?と川辺さんが首をかしげてあたしを見た。
「何?」
「いや、前からなんか川辺さんって誰かに似てるなあ誰だろう、て思ってたんだけど」
「うん」
「今分かった。うちの学校の先生に似てるんだ」
「先生?」
 ひとりうなずいてしまうあたしを、川辺さんがきょとんとして見ている。
「うん」
「ふうん。どんな先生?」
「えーと。波多野先生っていって数学の先生。ほわーんとしててちょっと天然入ってるけどまあ優しい先生かな」
 あれ?
 説明しながら改めて思い返してみると、やっぱりそこまでは似てないかな。でもふとした時になんとなく似てる気がするんだよなあ。なんていうか、雰囲気が。
「ああ、そういえば先生眼鏡かけてるよ。川辺さんも眼鏡かければもっと似るんじゃないかな」
「そうか。似てるのか」
「そうだ、今度連れて来ようか?たぶん話せば先生面白がって来ると思うよ?」
「…………」
 それは楽しそうだと思った。ところが気がつけば川辺さんは俯いて黙り込んでしまっている。
「……どうしたの?」
 あたしは急に心配になった。何か気にさわったのかな。
「……いや」
 けれども川辺さんは俯いたまま首を振った。
「なんでもないよ」
 そして顔を上げて微笑んでくれたけれど、なんでもないようには見えなかった。



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