来客


「あのー」
 ふいに事務所の扉が開いた。
「はい。あ、千秋ちゃん」
 見ると顔を覗かせていたのは千秋ちゃんだった。遠野さんとこの一番下の妹さん。
「こんにちは。あの、ちょっといいですか?」
「ああ、えーと」
 私はおシゲさんをちらりと見た。おシゲさんはにこりと千秋ちゃんに笑いかけて、
「所長とシーナは出かけてますが、それでも構わなければ、どうぞ」
 とソファーをすすめた。
「はい、構いません」
 千秋ちゃんはうなずいて事務所へ入ってきた。
「めずらしいねえ、千秋ちゃんがうちにくるなんて、どうしたの?」
「あ、ユウさんこんにちは」
 確かに彼女がうちに来るのはめずらしかった。彼女のお兄さんが所長の友人で、遠野さんちがちょっと特殊な家業を営んでいることから、うちに来た妙な依頼の一部を回したりすることもあるような間柄なのだが、うちから遠野さんの方に行くことはあっても向こうからこっちに来ることはあまりなかった。
「えーと、実は……」
「まあどうぞおかけください」
 おシゲさんがのそりと立ち上がって改めて千秋ちゃんにソファーをすすめると自分も腰を下ろした。
「何かあったんですか?」
「あの」
 千秋ちゃんはちょっと緊張した様子で言った。
「実はちょっと本条さんに会いたいって言ってる人がいるんです。うちの学校の先生なんですけど」
「所長にですか」
「あれ、ひょっとして依頼?」
 おシゲさんとユウさんがそれぞれ驚いたように目を丸くした。私も驚いた。一度に二件も依頼がくるなら大変だ。
「えーと、依頼というか聞きたいことがあるみたいというか……いつだったらいいですか?」
「ああ」
 おシゲさんは壁に貼ったカレンダーに目をやった。
「放課後になってからがいいそうなんですけれども」
「そうですね、明日で構いませんよ」
 うなずいて、おシゲさんはまた千秋ちゃんに向き直った。
「それでは明日の夕方で。わざわざ来ていただいてすみませんね。明日はちゃんと所長をつかまえておきますから」
 微笑んだおシゲさんに千秋ちゃんもちょっと笑った。
「はい。よろしくお願いします」



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