脱線中


「へー」
 こんなこともやってたんだ。
 私はいちいちへーとかほーとかいいながら過去の資料をめくっていた。私がここに入る前にきた依頼に関するものも多くあり、それを見ていくのは予想以上に面白かった。片付けながら見ていくつもりがだんだんそれどころじゃなくなってきている。
「マスミちゃーん」
「え?あ、はい」
 不意に呼ばれてはっとそちらを見やるとユウさんが笑顔でこちらを見ていた。
「ちょっと脱線しちゃってるでしょ?」
「え、いやそんなこと」
 私は慌てて首を振った。まあ確かに今見てたものは今回の件とは明らかに関係なさそうなものだったし脱線だと言われてしまえばそうなのかもしれないけれど。
「そう?」
 ユウさんはパソコンの画面に視線を戻してひとつ伸びをした。
「そちらの調子はどうですか?」
「あー、僕はさっきから脱線しっぱなしだよー」
「え?」
 そうだったんだ。さっきからパソコンに向かうユウさんの横顔はいつになく真剣だったからてっきり真面目にやってるとばかり思ってたのに。
「でもまあ時には脱線するのも大事だよね。脱線してたおかげで意外なところから意外なものが見つかることだってあるんだし」
「あ、そうか、そうですよね」
 ユウさんの言葉に私は思わずなるほどとうなずいた。確かに時には脱線するのもいいかもしれない。
「……マスミさん」
 と、今まで黙って私たちが話すのを聞いていたおシゲさんが、ぼそりと会話に入ってきた。
「だまされてはいけませんよ。ユウのそれはつまりはサボるための言い訳なんですから」
「え?」
「がーん。おシゲさんそりゃないっす」
 ユウさんは大袈裟に傷ついた振りをしている。おシゲさんがあきれた様子でそれを見ていた。



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