つーわけで


 私たちは応接セットのところに集まった。所長の隣におシゲさん、その向かい側にシーナさんとユウさん、そこでソファーが埋まってしまったので私は自分のイスを引いてきてシーナさんの隣だ。
「スズとハナは?」
「まだ学校みたいです」
「あーそうか、まあいいや。シーナ、あとで話しといて」
「はいよー」
「それじゃあ」
 ちょうどいいタイミングでおシゲさんから手帳が差し出された。それをぺらぺらとめくって、所長は話しはじめた。
「まあ、ざっとどういう話かってーと」
 依頼人の名前は野中紗恵子。捜してほしい人がいるという。
 その人物の名前は桐島広海。なんか研究所の副所長らしいが詳細は不明。研究所とやらについても詳細は不明。場所も不明。なんでも、その研究所はある日突然建物ごと消えてしまったのだそうだ。
「つまり人捜しもだけどその研究所とやらについても調べてほしいということだ。まあ片方がハッキリすればおのずともう片方についてもハッキリするというわけだな」
 とりあえずその研究所があったという場所へ行ってみると、そこは確かに広々とした空き地だった。依頼人の話では2階か3階建てのそこそこ大きい建物だったらしい。そんなものが一夜にしてきれいさっぱりなくなってしまうものだろうか。
「ほんとにそんなことあるんですか?」
「な?変な話だろう?」
 ひとまず依頼人とはそこで別れて、今度はご近所さんらしき人を捜しては話を聞いてみた。
「ところがそのおばちゃんときたら!『え?あそこはもうずいぶん前から空き地でしたよ?』だってよ!」
 さらにそのおばちゃんだけでなく他のご近所さんらしき人にもまた話を聞いてみたが、やはりどの人からも似たような返答が返ってきたそうだ。
「な?やべーだろー?ちょーやべーだろー?」
 所長は手にしたボールペンをくるりと回した。こうやって話しながらも所長はメモ帳をぺらりとめくっては何やら書いてまたページを戻している。何やってんだろう。まさか落書き?
「でもまあ確かにあそこは怪しい。超怪しい。なあおシゲさん」
「そうですね」
 所長は変に自信たっぷりに断言し、おシゲさんもうなずいていた。そうなんだ。
「どうして?」
「それがなあ」
 なんでも帰り道、実は尾行されていたのだそうだ。それもなぜか鳩に。実際は鳩に見せかけた別のものだろうとおシゲさんが補足していた。
「で?ちゃんと撒いたんでしょうね」
 シーナさんが眉間にしわをよせて言った。けれども所長はにやりと笑って、
「いや、ここまでつれてきた」
「は?何やってんのよ」
「だってもしそれで何か起これば逆に手掛かりになるかもしれないし?」
「だったらいっそ捕まえちゃえばよかったじゃない。何か起こってご近所に迷惑がかかったらどうすんの?」
「まあまあ」
 あ。
 ふとさっき所長が窓の外を眺めてたのを思い出した。そうか、それで空見てたのか。
「とりあえず、ユウ」
 ふと所長はメモ帳のページを一枚破ってユウさんに渡した。どうでもいいけどそのメモ帳おシゲさんのなんじゃないかな。
「思い付いただけキーワードあげといたから、お前これで片っ端から検索な」
 どうやらさっきから何やら書いていたのはこれらしい。
「多いですねー」
 ユウさんは眉を寄せてメモをのぞきこんでいる。所長はメモ帳をおシゲさんに放りなげた。
「思い付いたらもっと足してくからなー」
「何やら怪しげな単語も並んでますね」
「そりゃあこの件自体が怪しいんだからしょうがねえだろ」
「何か見つかりますかね。ご近所さんも知らないような話なんでしょ?」
「そこはお前の腕の見せ所だなあ」
 所長はにやりと笑った。ユウさんも、まあそうですね、と顔をほころばせた。
 とりあえず依頼人の連絡先と現場までの地図、それと大体の話をまとめたものです、とおシゲさんが資料をくれた。へー。ていうかいつのまに。
「あと過去の資料に何か変なのなかったか見とくかね」
 やれやれと天井をあおいで、ふと所長はまた窓の外に視線をやった。
「本当はなあ、例の鳩の飼い主がまた何か行動を起こしてくれれば、それが一番手っ取り早いんだけど」



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