笑顔が怖い


「……どうやら追跡に気付かれたようですねえ」
 じっとモニターを見つめたまま倉沢がぽつりとつぶやいた。
「え?そうかな?」
「ええ。どうも先ほどから」
 透が首をかしげていると、倉沢はモニターに手を伸ばして、そこに映る人物の片方をを指差した。
「この、チャラい方の様子が変です」
 研究所跡地の様子を見に来ていたらしき三人連れ。そのうちの一人、女の子は現地で別れ、今は二人連れになっていた。その片方、倉沢いわく『チャラい』青年の方が、言われてみればどうも落ち着かない様子だ。
「あ、こっち見た」
 と、不意に彼が振り向いた。明らかにこちらを――鳩を指差して、何やらげらげらと笑っているように見える。
「…………」
 透は隣に立つ倉沢の様子をちらりと伺った。モニターをじっと見つめるその横顔がなんだか怖いものになっているように見える。
「……なるほど。こいつは敵ですね」
 やがて倉沢はつぶやいてうっすらと笑みを浮かべた。モニターの中の彼は今度はこっちに向けて中指を立てていた。
「あああ倉沢くん落ち着いて」
「おや。私は落ち着いてますよ?」
 でも笑顔が怖いよ!とは言えずに透は内心おろおろするばかりだった。



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