萌え〜?


「おーい夏美、そっちはいいから店内のほうまわってくれないか?」
 奥で洗い物をしていると冬樹兄さんがひょいと顔をのぞかせて声をかけてきた。私は顔をしかめてそっちを振り返る。
「嫌だ」
「じゃあレジの方でもいいから」
 冬樹兄さんは困り顔でうったえかけてくる。けど申し訳ないがやっぱり嫌なものは嫌だった。
「ゲンさんとリュウさんがいるでしょう?それで足りないなら小春兄さんにでも手伝わせればいいじゃない。私は嫌です」
「小春とリュウさんは、今ちょっと別件で出てるんだよー。頼むよー」
 私はひとつ溜め息をついた。別件ね。それなら仕方ないけど。
「じゃあ、このままでもいい?」
 私はちょっと服を引っ張った。普段着にエプロン姿。そんなにみっともなくはないだろう。
「だめだめー」
 ところが案の定冬樹兄さんは首を振る。
「ちゃんと着替えてもらわないと」
「…………」
 それが嫌なのに。
 うちはちょっとアジアンテイストていうか中華風のカフェみたいなものをやっていて、店内の接客係は一応制服みたいなものとしてチャイナ服を着ていた。男性用ならまだいい、女性用のチャイナドレスがなんていうか私にはちょっと恥ずかしいのだ。
「そうだ、スーが代わりに行って」
 私は隣に立つ相棒のスーを見やった。ところがこいつときたらにやにや笑って、
「いいじゃん照れんなよ夏美〜。チャイナ姿似合ってるぜ〜。セクシ〜。萌え〜」
 そんなことを言う。まったく、何が萌え〜だ。
「ほらー、早くしろってば」
 ちょっと苛立ち始めた様子の冬樹兄さんに私はあきらめてもう一つ溜め息をついた。



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