雷鳴







いつのまに、彼女の部屋に戻っていたんだろう。

セフィロスはずぶ濡れのまま、元の部屋に立っていた。彼女の部屋だ。彼女の、千夏の臭いがする。

きっと彼女が死んだなんてことはないんだろう、そう思って、部屋から出たところでリビングから話し声がするのを聞いた。聞いてしまった。

すすり泣く声、慰める声。

「あの子はまだ、若いのに…!大学の準備もできてたのに…!最近新しい友だちもできたって言っていたのに…!」
「ああ、本当に優しい子で…あの男の子を助けてぶつかったらしい」
「ううぅ〜!」

まさか。やめてくれ。
大怪我をしただけなんだろう?
ただ長期の入院になったとか、そんなことなんだろう?
信じたくなくて、耳をふさいだのに。
ソルジャーの良すぎる耳は、父親だろう男の口から、その言葉を漏らさず聴きとった。



「…千夏の、葬儀をしよう」


セフィロスは、そこで心臓が止まるかと思うほど、息が、できなかった。



深夜、千夏の両親もようやっと寝静まる頃になるまで、セフィロスは息を潜めて隠れていた。
千夏の部屋、その主はもう、戻らない。

(「あのこ、最近友だちと遊ぶって言って、よく外にでかけてたの。あの日も…台風が来てるのに…外に…」)

まさか、俺を待っていたのか?
俺を待っていたから、事故に遭ってしまったのか?
俺の、せいなのか?

のめり込む思考が、セフィロスの動きを鈍らせる。

千夏、俺は、なんてことを、
視界が狭まったような感覚にふらついて、とっさにあたりのものをつかもうとする。

ここまで弱るとは。セフィロスが伸ばした手はどこも掴まず、無様に床に膝をついた。

彼女は死んだ。
俺はついに彼女の年を越して、彼女よりも長く生きて。
だけど彼女の時はもう永遠に止まったままなのだ!
千夏は、時間に遅れた俺を置いて遠くへ行ってしまった。
彼女に幸せなのだと言おうとしたのだ。
君のおかげで今、毎日を美しく感じていると、輝かしく思っていると。
それなのに、千夏はもういない。
もうその声で話しかけてくれないのか?微笑んでくれないのか?あのときのように、涙をながすほど俺に怒った顔を向けることもないのか!
指が震える。のどが渇いて、視界がぼやけて熱くなる。

こんなにもいきなり!

どうしようもない別れに打ちひしがれることしかできない。自分はなんと無力なのか。
だが、無力じゃなかったとして、何ができるというのか。死んだ人間が蘇るなんてこと、きっとこの世界でもありはしないのだ。

「夢なのに、夢なのに…!何も上手く行きはしないのだな…!」

ぽた、と雫が垂れる。
きっと初めてなんだ。誰かが死んで、それが悲しくて、涙することも。だが、こんな感情を慰めて欲しいと思う人はもういないのだ。

そんな、真夜中のぼやけるセフィロスの目に、きら、と光るものが入りこんだ。こんな、電気もつけていない部屋なのに?
光の方へ目を向けると、それは机の下に隠してあった。
キラキラしたケースはいかにも少女趣味で、中には小包と半分に折られた便箋が入っていた。
なんでだ?なんでこんなにも、この『なんでもないようなもの』に惹かれる?
無意識のうちに、中の包みまで開いていた。
中には、セフィロスが千夏にあげた指輪と似たような、銀の指輪だった。
ハッとして、セフィロスは便箋を広げた。予想通り、内容は手紙だった。それも、セフィロスへの。



→→→→



セフィロスへ

お元気ですか。
どうしたのか、あれからセフィロスと会えなくなってもう3週間です。
最後に言ったことにすねてしまったのか、それともセフィロスに何かあったのか、どちらかなんてわからないので、この期間には不安を覚えます。
2週間目に、懲りずにあなたへの贈り物を考えていました。セフィロスはもうもらったと言いましたが、しっかりとお返しをしないと気がすまないので、同じにできるところは出来る限り同じにしました。私に送ったものに、セフィロスの名前を入れておくなんて、中々セフィロスは私に本気なんだと思いました。嬉しかったです。
きっとセフィロスは私が何を言っても私に割り振る気持ちの割合を変えないのだと思います。私が自惚れているのでなければ。
だから、こちらも厳しいことを言わせてもらいます。
私は幸せなあなたが好きです。
悔しいことに、あなたとの家庭は築けないので、誰かと家庭を築く幸せなあなたが好きです。
だから幸せになってください。
きっと17歳までの期間限定だったのかなと思います。
あの10日間であなたのことをどれだけ幸せにできたかはもうわかりません。
あなたにとっての10年、私にとっての10日。
私はこの奇跡的な出会いを胸に、これからを生きます。
あなたもどうか、お元気で、お幸せに。

あなたの遠く、千夏より

P.S 指輪は大切にします。指のサイズがわからないといったのは、冗談だよね?




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