豪雨







雨が降っている。
どうしたことか。
ここまで天気が悪いとは。

また一年、待ち遠しく過ごした。
信頼できるだろう人間を見極めた。
汚く甘い汁だけ吸わせてもらおうと這いよる虫を蹴散らした。
仲間の殉職を見届けた。
ひょこひょこついてくる後輩の世話が楽しい。

色々話して、笑い合って、慰めてもらおうと思って。
前にもこんな日はあったけど。
なんだか、寒気がするようだ。

だって、千夏の部屋に、『俺がたった一人でいる』だなんて。

いつのまにか満ちている唾液を飲み込んで、セフィロスは急いで家から飛び出した。



→→→→



千夏、どこにいる?
いつも側で迎えてくれたじゃないか。
この世界で俺を知っているのは千夏だけなのに。
さっきつばを飲み込んだのどが渇いてる。家を飛び出してからずっと走り続けているからか?そんなことはどうでもいいか。
結ばれないとわかっていても、結ばれるなら結ばれたいと思っているんだ。

千夏。

なんであんなに時間が経っていたんだ?

子供の泣き声がする。
男子だ。
まだ変声期も終わってなくて、甲高い、女子ともさほど変わりない声。
雨が、風が強くなる。

千夏。

この一ヶ月、どう過ごしてた?

カレンダーがめくられていた。
当たり前だ。
7月31日の次は8月1日だ。
千夏は一緒にプールにでも行こうと誘ってくれた。
でも、8月の日付の殆どがバツ印で消されていた。
残っていたのは、最後の31日だけ。
それはつまり、今日が8月最後の日ということか。

視界が悪くなる、雨が横殴りで叩きつける。。
足が滑りそうになんてならない。
自分はソルジャークラス1stなのだ。これ以上の悪路を知っている。

一階、リビングのテレビがつきっぱなしで、ニュースキャスターは延々と同じ内容を喋らされていた。

『8月最終日の今日、予想されていた大型台風は本土上陸を…』
『中心気圧は890hpにもなり、さらなる強力さを持って…』
『お出かけの際には傘など、その他飛来物には十分注意を…』

誕生日がこんな天気になるなんて、千夏は落ち込んだりしていないか?
今度は俺が君の愚痴を聞こう。一ヶ月も経ったんだ。それなりに話すことくらい溜まったと思う。

声が近づく。
人だかりができている。
けど俺の背は頭一つ分飛び抜けていたから…中心がよく見えた。

雨と雷に混じって泣き声がする。
雲と風に混じって煙が立っている。
水と泥に混じって血の臭いがする。

その中心にいるのがまさか。





君だなんて





急激に、景色も音も、感触も嗅覚すらも遠のいて。
セフィロスは頬に何かが伝うのにも気づかなかった。



× ×


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