カルロと再会を果たしたあの日から俺は度々ナーオスを訪れるようになった。
それは旅の途中の寄り道が殆どだったが、今日は単に俺の我儘だった。
「スパーダ様お1人とは珍しいですね。」
「あぁ、たまにはな。」
手慣れた様子でキッチンに立つカルロを眺める。
「なぁ、お前、ずっと何してたんだ?」
「そうですね、養父の看病と、それが落ち着いてからは町の用心棒みたいなものを少々。」
「そうか…。」
カルロの淹れた茶を飲む。
温度も濃さも何もかも俺の好みに合わされたそれは、カルロが居なくなってからはずっと飲めなかった代物だ。
他の誰にもこの味は再現できなかった。
「スパーダ様は何をしてらっしゃったんですか?」
カルロは俺と同じテーブルには着かない。
今も俺の半歩後ろで立ったままだ。
そうだ、俺はこれが嫌で、何度も強請って困らせてたんだった。
「座れよ、カルロ。」
「自分はスパーダ様と同じ席に着くことは許されてませんので。」
申し訳御座いませんと眉をひそめたカルロの襟首を掴んで力任せに引っ張った。
それでもバランスを崩すことなく立ったままなのは少し腹が立つ。
「もう、使用人じゃねぇだろ、お前は。俺が言ってんだ、聞けよ。」
だから座れと、椅子を引けば驚いた顔が笑顔に変わる。
「スパーダ様のお願いじゃ仕方ないですね。」
仕方ないとも思ってないような声でそう言ったカルロは自分のカップを用意してから俺の真横の椅子に腰かけた。
「お願いじゃねーし、…っつか近くね?」
「おっしゃってる意味が、少し…?」
スパーダ様が座れとおっしゃったじゃないですかと、とぼけた顔を見せてから、カルロは俺の耳元に口を寄せた。
「不愉快なのでしたら、ご命令ください。スパーダ様のお言葉でしたら何なりと。」
俺が何も言えないのを知っていてこういう事を言う。
カルロは時々嫌な奴だ。
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