僕だけ名前で呼んでくれない、彼女に対しありとあらゆる手を使って名前を呼んで貰う事に成功した僕は機嫌が良い。彼女に対して感じていた壁も無くなったようで、前より本当の意味で距離が縮まった気がする。
「モナさん、旅が終わったら言いたい事があるんだけど」
この旅が終われば終わらせなければいけないと分かっていても、どうしても止められなかったんだ。
「…私も聞いて欲しい事あるから、旅が終わっても黙って何処か行かないでね。」
何処かへ行く時には、出来る事なら君を一緒に連れ去ってしまいたいな。
『無垢なる絆の物語』は終わってしまった。
物語の終わりは即ち僕の旅の終わりでもある。
黎明の塔で旅の終わりを喜ぶ仲間達を遠くで眺めてから、僕とキュキュは何も言わずに姿を消した。
目的は完璧に達成されたし、思い残すことは何もない。
トライバースゲートへの道のりは長く敵が多い。
不本意だけどキュキュと協力しつつ最奥を目指して苦労はしたけど、なんとかゲートの前についた。
このゲートを開けば故郷へ帰れる。
僕はゲートに手を触れる。
「待って!」
ゲートに触れた手を離して振り返ればそこにはモナさんが居た。一人でここまで来たんだろうか。
「コンウェイさん、私に言いたい事有るって言った、黙って行かないって言った!」
顔から出るもの全部出しながら走り寄ってきたモナさんは僕に飛びついてきて、その勢いのまま地面に倒された。
ゲートは既に開いていてキュキュの姿が見えないのは彼女は先に行ってしまったんだろうね。
「僕、異世界から来たんだ。やり遂げたい事があってこの世界に来て、すべて終わったから、帰らなきゃいけない。」
帰らないという選択肢は持てなかった。僕にはまだやる事がある。
君を置いて故郷へ帰る、もう一度繰り返せば心が痛む。
言いたかった事はそれだけじゃ無かったけど、これ以上を言葉に出すのは僕には出来なかった。
「…言いたい事はそれだけ?」
「…そうだよ。」
「分かった。じゃあ次は私の聞いて欲しい事、言うね。」
僕の上に乗ったまま、彼女は少し悩んでから言葉を放った、「私も連れてって。」と。思っても無かった言葉に驚いて、僕は何度も彼女の顔を見たが、彼女は顔から出るものを出したままだけど、笑っていた。
「本当に、君には敵わないな…」
いつでも僕の予想の斜め上を行く。
手を伸ばせば簡単に届いてしまう事にまだ戸惑っていた。
僕は君への想いを言葉にしても良いのかな?
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